ベニー松山のウィズ小説『風よ。龍に届いているか』

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 ウィズ小説の傑作『風よ。龍に届いているか』は「シナリオ#2ダイヤモンドの騎士」および「シナリオ#3リルガミンの遺産」をベースとした物語だ。『隣り合わせの灰と青春』の続編に位置するがその趣は全く異なる。
前作がゲームのシナリオに沿った形で進行するのに対し、創作されたストーリー展開の今作ではウィズ小説という枠を飛び越えたファンタジーの世界が描き出されている。
重厚な世界観と群像劇でありながらも主人公であるジヴラシアの魅力は際立ち、背後に迫る焦燥と重くのしかかる破滅の足音が通奏低音のように鳴り止まない展開は 読者に俯瞰を許さない。

 それにしても戦闘シーンの描写には唸らせられる。ファンタジーであるからこそ、非現実的な描写には何よりも説得力が求められる。
ハイランスの居合いは気で斬り裂くのだしジヴラシアの必殺の手刀は音速を超える。ましてやディーの魔法など現実にはあり得ない現象が、その世界には存在し力を行使している。ファンタジー小説なんだからそういうものだということではなく、肉体が躍動する様や印を結ぶ姿のヴィジュアルが読み取れるのだ。
ウィザードリィをプレイするとき、その極端にシンプルなテキストゆえに全てはプレイヤーの想像にゆだねられる。忍者のクリティカルヒットや魔法使いのティルトウェイトの光景、かつて想像したまさにその光景が、より鮮明になってここにある。

 これらの作品を盛り上げる舞台装置の完成度の上で登場人物たちは生と死を謳歌する。
パーティーの仲間として集まりながらもそれぞれが譲れない目的を持ち、ダンジョンの中で思いが錯綜する。
魔人ダバルプスの巨大な悪意があり、不可解な妖獣の存在があり、善、悪、中立といった戒律を超えた奇妙な共闘関係がある。これはウィザードリィシナリオ3の特徴でもある。
そして『隣り合わせの灰と青春』からの因縁を持つ者たちと、遥か太古からの使命に順ずるアドリアン。
これら複雑に絡み合うストーリーは熱量を増しながらひとつの結末へと収束していく。
これほどの長編ファンタジーで何を欠かすこともなくクライマックスを迎えることのできる作品はいくつもない。

 『風よ。龍に届いているか』はウィズ小説であり、作者によってゼロから作り上げられた創作物ではない。
しかし設定がウィザードリィだからウィズ小説と呼べるのではない。まるで地下ダンジョンに踏み込んでいるかのような緊迫した臨場感こそが『風よ。龍に届いているか』をウィズ小説たらしめている。
それはこの小説がひとつの完成された世界を創り出している証でもある。

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このページは、マピロが2008年8月20日 19:36に書いたブログ記事です。

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