同人ウィズ小説の傑作『和風Wizardry純情派』

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 現代日本の京都に怪物が跋扈する謎の地下迷宮が出現した。いつ怪物が地上へと湧き出してくるか知れない状況は日本を恐怖に突き落とした。自衛隊の殲滅作戦も地下迷宮という特殊環境には対応できず撤退を余儀なくされる。対策に手をこまねいているなか怪物の死体に価値ある化学成分が含まれていることが判明。この時点で怪物は狩猟の標的となった。かくして探索は民間に委ねられる事になり迷宮街が誕生する。『和風Wizardry純情派』は命を懸けて地下迷宮を探索する現代のガリンペイロたちの物語である。

 これは2004年に完結したweb小説です。
骨子となっているのは「シナリオ1 狂王の試練場」ただし死亡からの復活なし。これを現代日本にもってきたという思考実験としてみてもとても興味深く面白い題材。主人公らしき登場人物はいるんだけど、役割としては狂言回しに近い。
 迷宮街という場所以外は現代日本である。冒険の成否に世界の存亡がかかっていたりすることもない。マクロな視点では淡々としたものなのだ。
当然探索者は現代の日本人に住む者ということになる。中には例外もあるがその殆どは学生や会社人としての生活を捨て、死亡率18%といわれる迷宮街へと足を踏み入れた者たちだ。
──死亡率18%
想像してみて欲しい。現代の日本に住んでいながらそんな戦地より死亡率の高い場所に自ら進んで行く人間を。そしてそんな死地へと送りだす家族や知人達の思いを。
リアルタイムで書き綴られていた当時衝撃的だったのは、登場人物が2%の確率で死ぬという判定が機械的に行われていたということ。予定調和の無い命運はまさにウィザードリィ的だ。次に死神にとり憑かれるのは、お気に入りのあのキャラクターかもしれないという緊迫感が常にあった。

 登場人物たちの迷宮内での命を懸けた戦いや、魔法の存在に関する設定や描写はしっかりとしたもので、決して商業ベースの小説に引けをとるものではない。しかしこの作品の見所は迷宮内の探索ではない。
迷宮探索者として登録する覚悟。
勝つためではなく死なないための鍛錬。
仲間を死なせてしまった悔恨。恐怖。
生きて地上に戻った時の安堵。憔悴。
刹那の生と自覚しているが故の享楽。そして貴重な日常。
探索者たちのエピソードだけではない。
探索者を支え、生存率を上げるための策を練り続ける迷宮街事業団。
直接迷宮には潜らないが探索者の利益と理解のため陰で闘う商社の雄。
心惹かれながらもいつ帰らぬ人となるか知れない探索者とは深く関わるまいとする一般生活者の葛藤。
実に様々な要素が盛り込まれている。
 探索者は英雄でもなんでもない。我々となんら変わらない人間だ。だからウィザードリィの迷宮で死線を彷徨うという異常時にあっても、決して彼ら彼女らの感情は理解から遠いものではない。なんといっても、この作品は恋愛小説なのだから。

 『和風Wizardry純情派』は何度か商業ベースでの刊行が話題に上ったが、未だに実現していない。実際、同人小説として頒布された上下巻のセットは入手困難という状況。ただ、現在ライトノベル化に向けて準備中...らしい?
そういう理由もあってwebで公開されていたサイトとpdfファイルは現在削除されている。(実はインターネットアーカイブで探せば見つかったりするんですけどね)
本サイトはこちら[Wの跡地(旧 和風Wizardry純情派)]
マンガ化もされていてこっちは今でも購入可能。タイトルは『迷宮街輪舞曲』

おっと、忘れちゃいけない。
商業ベースで発刊されたら、オレは絶対買いますよ!

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このページは、マピロが2008年8月21日 19:47に書いたブログ記事です。

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